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裁判経過

最高裁上告趣意書

平成16年(あ)第1766号 大麻取締法違反幇助被告上告事件
被告人  前田耕一
上告趣意書(訂正)
2004年(平成16年)10月 7日
最高裁判所 第三小法廷
            御中
               被告人 前田耕一 弁護人
               弁護士  森川真好

つぎのとおり、被告人前田耕一に関する大麻取締法違反幇助被告上告事件について、上告の趣意を訂正して、主張する。


1.(はじめに)
  本件において、主張する憲法違反事由は、つぎのとおりである。

  @(大麻の有害性、大麻取締法の合憲性)
大麻には当初予見したほどの有害性のないこと、したがって、大麻取締法は、立法当初とその後の「累次の判例」の時点での立法事実(法律の合憲性を支える事実)を失っており、もはや薬剤に対する不相当な規制として憲法第31条の適法手続(実体的デュープロセス)に違反するとして、違憲と判断されなければならない。

  A(大麻使用の正当性―正当行為[刑法第35条]の適用)
原判決は、たとえ大麻が「法禁物」であっても、一定の場合には使用できる場合もあることを暗黙の前提として、中島が本件直前に医師の診断を受けていないことを理由として正当性を欠くとしているところ、中島は、本件以前に2回に渡って医師の診断を受けており、しかも、緑内障と言う病気が進行することがあっても自然治癒する病ではない本件において、被告人に正当行為を理由とした違法阻却事由を認めないことは、手続的デュープロセスに違反し、もって、憲法第31条に違反する。

  以上のとおり、原判決は、明らかに憲法に違反しており、破棄されるべきものである一方、被告人提出の各資料によれば、大麻の医療的な利用を禁止すべき理由は全くないものと言うべきだから、当審においては、すみやかに、大麻取締法の法令あるいは適用違憲、または、刑法上の正当行為を理由として被告人の無罪の判決を行うことが妥当である。
  以下、詳細を論ずる。

2.(大麻取締法の違憲性)
  原判決には、大麻取締法第4条およびこれを受けた同法第24条の2第1項は、薬事法について必要最小限の規制を定めた憲法第22条1項およびこれを受けた最高裁判所(大法廷)昭和50年4月30日判決民集29巻4号572頁に違反している。

 (1) 前提―手続的および実体的デュープロセス
  現憲法は、第31条において、手続が(適正な)法律に従ったもので無ければならないこと(手続的デュープロセス)が定められているだけではなく、その適用される刑事実体法が、現憲法における個人の尊厳の確保(同第13条)とそのための人権保障(同第2章)の趣旨に合致していることが求められること(実体的デュープロセス)が定められていることは、明らかなことである(佐藤幸治著『憲法〔第三版〕』587ページ、同590ページ)。

  そして、当該刑罰法規が、その立法事実を失い、無意味な規制をしている場合には、その刑罰法規は、違憲として無効とされなければならない。なぜなら、その刑罰法規自体が、理由なく、国民の自由を奪っているからである。

 (2) 大麻の医薬品としての取扱の必要性
  T.大麻は、現在誤って法禁物とされているが、実は、医薬品であり、医薬品としての研究、開発、取扱が求められている。

  まず、大麻には、医薬品程度の有害性しかないことを説明する。
大麻の有害性について考えるに、大麻の有害性を検討するについてそもそも一般的な「使用」、特に、嗜好品としての「使用」における有害性とは、その判断の基準を異にすべきことに注意しなければならない。

医薬品に副作用が伴うことは当然のことであって、その副作用にもかかわらずある種の薬効が認められ、その薬効が症状緩和、病気治癒に役立つか否かを判断すべきものだからである。その意味では、すべからく医薬品は使用方法によっては有害であるのは公知の事実であるといってもよい。
その点からみると、大麻には、特に高い薬効が認められる反面、本件で問題となった緑内障について、その眼圧を低下させて失明を防ぐ効果において、また、末期ガン・多発性硬化症などの痛みを伴う治癒困難な病気における痛みの緩和において、劇的な効果をもたらすのであって、しかも、その効果に比して、習慣性はタバコより低く、また、精神的な依存度も低いのであって、これらの病状に限定したとしても、その医療的な意味での副作用(有害性)を超える薬効が示されている。
U.なお、本件においては、大麻の薬効に関して、なんら鑑定がなされず、もって、その薬効についても、裁判官の面前での実証がなされなかったことが、手続的な適正を欠いていることも指摘しなければならない。

というのも、すくなくとも大麻は、本件で問題となった病状(緑内障)に限っても十分に有益であることは明らかであり、実は、より広い範囲の病状に有益な薬効が認められるものであるが、原審裁判官は、この有益性(有害性)について、これを法廷において審理せずに、もっぱら裁判官の推測のままに判断しているからである。

このような審理方法の点につき、最高裁判例昭和60年(あ)第735号は、「有害性はいわゆる『立法事実』に属するから『判決事実』とは異なり、必ずしも訴訟手続における立証を要しない」とし、有害性の具体的な立証がなくても、裁判所は、推測における有害性をもって大麻を有害と認定できるかのような判断をしているが、本来は、累次の判例とは異なり、医療的観点からみて、施用・受施用を刑罰でもって禁止するにふさわしい有害性があるかどうか検討しなければならないものといわなければならない。

また、次に述べるように、すでに、大麻は、医療用としてのその薬効を確立しつつあるのだから、他の問題とは異なり、本件においては、鑑定をもってその薬効について検討すべきだったのである。

  そこで、一般的な大麻の医療用途の可能性について、この10年あまりに認識されたもので比較的新しく、これまでは十分な検討がなされているとは言い難い薬効について説明する。
九州大学大学院薬学研究院助教授山本経之氏は、日本薬学会会誌「ファルマシア2001年12月号」で「1988年、このカンナビノイドに関し驚嘆すべき知見が報告された。すなわち脳内にTHCの特異的な受容体(CB1受容体)の存在が明らかにされた。(中略)内因性カンナビノイドシステムに作用する薬物の創製は、既存の医薬品とは異なる作用プロフィールを持った新薬となる可能性がある。」と書いている。

また、IOM(アメリカ政府保険社会福祉省国立衛生研究所医薬研究所)の報告にも、「80年代から90年代にかけてカンナビノイド受容体の同定、解析が行われて以降、状況が大きく変わった。最近16年間の大きな科学的進歩により、カンナビノイドの医療面での有益性がさらに明らかとなった。」とし、「大麻を医療使用観点からみた場合、人体への有害作用は薬物乱用による有害作用とは必ずしも同等とはいえない。」「短期間の免疫抑制作用は完全には立証されていないが、仮にそういった作用があったとしても、合法的に医療使用できる薬物から大麻を除外するのに十分な理由にはならないであろう。」としており、大麻の薬効については、近年劇的に進展しており、本件裁判にあっては、このような医学的な新しい発見・進展を判決に反映させるべきである。
以上から、原審の取扱は、手続としても憲法第31条に基づく手続的デュープロセスの原則に違反しており、違憲とされるべきである。

 (3) 医薬品取扱に関する必要最小限度の規制
  したがって、大麻は、著しい薬効が認められるものであるから、医薬品としての規制に服するものと言わなければならない。

  とすれば、ここにおいては、薬事法上の規制は、必要最小限度で無ければならないとした最高裁判所(大法廷)昭和50年4月30日判決民集29巻4号572頁を参考とすべきであり、その規制は、必要最小限度でなければならないはずである。

  しかるに、大麻の医薬品としての使用は、大麻取締法第4条をもって、調査・研究を含めて、すべての取扱が、全面的かつ一律に禁止されているのであって、その規制が必要最小限度を越えていることは明らかである。

  大麻については、いかに外国で薬効が認められようとも、その薬効をわが国において追試験することすらできないのがわが国の大麻取締法による規制なのである。すくなくとも、大麻についての調査・研究は許されなければならないし、さらには、薬品としての使用は許されなければならない。未だ特効薬の無い本件のような緑内障において、大麻による治療を待つ患者が数千といるのである。

  したがって、大麻についての遊興的使用を禁止するにとどまらず、本来は社会に有用である大麻の医療的使用やその医療的使用のための調査・研究すらも禁止した大麻取締法第4条は、憲法第31条に違反して無効であり、さらに、その大麻取締法第4条を受けた刑罰規定である同法第24条の2および同法第24条の3は、大麻の医療的使用を禁ずるかぎりにおいて違憲無効であるといわなければならない。

 (4) 大麻に有害性があるとする認識は、すくなくとも医療使用に限っては、誤っている。また、その点を判断した判例、裁判例はない。
(判例、裁判例のないこと)
  大麻の有害性について、原判決は、「大麻の有害性および大麻取締法の合憲性については、累次の判例により明らかである」とするが、そもそもこれまで、もっぱら医療目的での使用について争われた裁判はないのであって、その意味で、本件に先立つ裁判例・判例は存在しない。
原判決が、大麻の有害性と大麻取締法の合憲性について判断した「累次の判例」と呼ぶのは、大麻の有害性をもってして大麻取締法を合憲であるとした最高裁第一小法廷昭和60年9月10日決定(裁判集240巻275頁、判例時報1165号183頁)をその最終結論とする最高裁判所、下級審裁判所等の判決群を指すのであろうが、これら判例、裁判例は、いずれも、大麻の使用一般、特に、嗜好品としての大麻の使用について判断したものに過ぎず、大麻の医療使用を目的とする今回のような事件の先例とすることは適当ではない。

なぜなら、大麻を医療用に使用する点については、医薬品がある程度の副作用を認識しつつもその薬効に着目して使用を認めることがある点において、通常の使用、特に、嗜好品としての使用が、全く有害性のないものについてのみその使用の事由を認める傾向にあることと著しく異なるからである。
  その意味では、大麻の医療としての使用については、これまで全審級において判断されたことがないものであり、今回、新たな基準から判断がなされなければならないものなのである。

(5) そもそもわが国では、有害性による健康被害の実態は、全く調査も報告もされていない。
有害性による健康被害の実態は、まったく調査も報告もなされていないことを厚生省の麻薬課長が法廷での証言で認めている。(長野地方裁判所伊那支部:昭和60年(わ)第6号大麻取締法違反被告事件 第10回公判調書証人尋問)

また、有害性そのものについては、厚生省は1976年に発行した「大麻」という報告書でネズミによる毒性試験と外国の学説を紹介しているが、仮に外国の有害説を容れたにしても、医療使用のための調査研究すらできないために、国内での調査や研究結果は報告できていない。
ここまでに強く規制したのは、大麻取締法制定当時、そして現在にいたるまで、国際環境からみて常識を逸脱しているとしかいえないのである。

我が国も批准した1961年の麻薬に関する単一条約は、大麻をヘロイン同等の強い依存性のある薬物で、生産、製造、輸出、輸入などを厳しく規制することを求めているが、「ただし、医療上及び学術上の研究(締約国の直接の監督及び管理の下に又はこれに従って行われる臨床試験を含む)にのみ必要なこれらの薬品の数量については、このかぎりでない」としており、アメリカの薬物規制法においても、大麻はヘロイン同等の範疇に入れられているが、臨床試験を含む大麻の医療研究が続けられてきたのである。これらのことから、医療使用まで禁止する根拠とした大麻の有害性を、立法が事実にもとづいて考慮したとは到底考えられず、したがって、「有害性をも考慮した上での立法の裁量に委ねられている」とする裁判所の判断には誤りがあるといわざるをえない。
 
また、厚生省によるこのほぼ唯一の報告書からすでに30年近くたつが、厚生省はその後も有害性について公的な調査を行っていないことが、行政文書開示請求を通して明らかになっている(厚生労働省発薬食第040833号その他)。つまり、裁判所が言うところの「大麻の有害性をも考慮したうえでの立法裁量に委ねられている」というのは、単なる推測にすぎず、まったく根拠がない。裁判所は健康と幸福という基本的人権にかかわることに関して、いたずらに立法に裁量権を委ねることで責任を放棄することなく、憲法の基本的理念に照らして、真剣に審議しなくてはならない。国連も有害性に関するかつての見解を変更しているばありでなく、特定の疾病に対する大麻の医療効果については認めており、臨床試験を含む研究を継続すべきであると勧奨しており、裁判所としては、我が国においても、大麻の有害性と、その有害性が医療目的での使用を禁止すべき程度のものであるかどうかを調査するための調査委員会などの設立を国会に勧奨すべきであると考えられる。

(6) 大麻の医療目的での使用は、諸外国において、すでに実用段階にある。
原判決は「所論の医療目的での大麻使用についても、関係証拠によれば、外国でそのような研究が始まっているというに過ぎない(それらの研究も、大麻の有害性を前提とするものである)のであるから、医療目的での大麻使用を認めるべきかどうかは、大麻の有害性等をも考慮した上での立法裁量にゆだねられているというべきであって、これを認めない大麻取締法が違憲であるということはできない。」とするが、外国では研究段階からすでに実用段階にすすんできており、例えば、カナダでは、2001年7月、医療用大麻入手に関して法整備が行われ、一定の条件のもとで、緑内障やガンの患者が政府によって所持と栽培が許され、実際に合法的に使用されている。イギリスでは、政府の認可を受けた製薬会社が、大麻から製造された医薬品の臨床試験を行っており、近くバイエル社を通じて、イギリス内外に販売する予定である。さらに、オランダ、ベルギーなどでは、医師の処方箋があれば薬局で購入できるのであるから、裁判所の言うように「そのような研究が始まっていると言うに過ぎない。」というのは、全くの事実誤認である。

これらの例から見ると、大麻の使用は、単に研究段階とはいえないし、アメリカでもいくつかの州で合法化されているのであるから、裁判所の判断は事実誤認である。医療効果についても、国連などが特定の疾病に効果があることをはっきりと認めている。

(7) これらからみると、大麻の医療目的使用は、その前提とする大麻取締法の立法当初にその立法を基礎付ける事実(立法事実)を失っており、大麻の医療目的使用に限っても、日本においても許されなければならない段階にある。
医療目的での大麻使用を我が国が認めるべきかどうかは、我が国において独自に臨床試験等を経た医学的事実にもとづいて立法が裁量すべきであるが、現行の大麻取締法は、その医学的事実を研究することすら不可能ならしめており、国民の健康と幸福を保障した憲法に違反している。医薬品としての大麻研究の第一人者である先の山本助教授は、「医療の一端を担う研究者として、諸外国での成り行きをじっと息を潜めて見つめるのではなく、我が国としてもせめて臨床試験が試みられるよう、柔軟かつ積極的な法的運用の整備がなされることを期待せずにはおれない。」と述べている。

また、国連は1997年、「薬物乱用プログラム・レポート」で次のように述べている。「カンナビノイドの医療使用:いくつかの研究によれば、カンナビノイドが癌やエイズのような進行した疾患の悪心や吐き気に治療的効果があることが判明している。アメリカでは10年以上も前からドロナビノール(合成THC)が医師の処方で入手可能である。カンナビノイドのその他の医療使用についても、喘息、緑内障、向鬱、食欲刺激、鎮痙などを含め、管理された研究により実証されつつあり、この分野における調査は継続されるべきである。例えば、胃腸機能のカンナビノイドの効果の中枢および末梢におけるメカニズムのより基礎的な研究がなされれば、悪心と嘔吐を軽減する能力をさらに高めることになるかもしれない。より良い医薬品が発見されるため、THCとその他のカンナビノイドに関するより多くの基礎的神経薬理学的研究が必要とされている。」
また、平成15年4月30日の文部科学省・厚生労働省「全国治験活性化3カ年計画」は次のように述べている。

「 我が国における治験の空洞化は、つぎのような問題を生じている。
(1) 患者にとって、国内での治験が遅れる又は行われないことにより、最先端の医薬品等へのアクセスが遅れること
(2) 医療機関や医師等にとっても、最先端の医薬品等へのアクセスが遅れることにより、技術水準のレベルアップが遅れること
(3) 製薬産業等にとっては、国内での研究開発力が低下し、さらに治験に係る新しい事業(治験施設支援機関(SMO)や開発業務受託機関(CRO)等)の振興やそれに伴う雇用の創出といった面でマイナスであること

以上、我が国の保健医療水準や産業の国際競争力に対してマイナスの影響が大きいものと考えられる」。
かかる点から見ても、医療目的の臨床試験すら禁止し、医薬品としての研究を阻害している大麻取締法は、国民の健康と幸福を保障した憲法に違反している。
国はこれまで医療用大麻使用の有害性を立証していないのであるから、「有害性等をも考慮した」上での立法裁量にゆだねられているとして、医療使用に関する裁判所の判断を放棄するのは、司法権の独立性を放棄することであり、三権分立を基礎としたわが国の民主主義の否定に通じるものであり到底容認できるものではない。裁判所は、先進諸国のなかで日本だけが臨床試験を法的に禁止しているという特殊な事情を踏まえ、国に医療用大麻の使用を禁止している理由を明らかにさせるべきである。

(8)結論
  以上から、大麻について、臨床試験を含む調査、研究、医療のための使用ができないほどに規制することは、すでに必要最低限の規制を遥かに超えており、大麻取締法の第4条および同法を受けた第24条の2第1項、もしくは、その適用は、違憲として無効とされなければならない。
3.(原判決の違憲違法―医療使用が正当行為であることを見逃していること)

(1) 上記にかかる大麻取締法の違憲性の問題とは別個に、そもそも、大麻を医療的に使用することについては、ある条件下ではあるが、刑法上の正当行為として認めるべきであるにもかかわらず、原審はこれを認めず、被告人を処罰している。この点について、手続的デュープロセスという刑事手続の違反があり憲法第31条に違反することから、原判決の破棄を求める。

日本においては、大麻の医療的な使用についての規制が病気治療を妨げている以上、やむを得ず行う大麻による病気治療が、まさに、司法的判断においては許されなければならない。司法の役割は、法律の一般的な規制が合理性を欠く場合に、個々の具体的な事案を通じて、各個人の権利(大麻を医療のために使用して健康を獲得する権利)を保障するためにあるからである。

第1審判決は、医療目的での大麻使用は研究段階にある以上、人体への施用が正当化される場合がありうるとしても、それは、大麻が法禁物であり、一般的な医薬品としては認められていないという前提で、なおその施用を正当化するような特別の事情があるときに限られるというそれ自体としては正統な解釈を示している。しかし、本件の具体的事実を見る限り、本件譲渡の前後に中島の症状について医師による診断はなされておらず、したがって本件大麻を使用する医学的な必要性や相当性を裏付ける事情はなく、本件大麻が医学的な配慮の下に施用された形跡もないのであって、中島の本件大麻譲受けが正当化され、あるいはその処罰が適用違憲となるような事情はうかがわれないとする。

しかし、中島が本件譲渡の前後に医師による診断を受けていないのは、中島が証言するように、担当医から「視野狭窄が起ったら、来なさい」といわれていたからであって、中島が緑内障ではなかったということではない。むしろすでに2人の別個の医師から、「緑内障」であることの診断は受けていたのである。これからみると、中島には、「緑内障」の治療が必要だったのである。
大麻が緑内障に一定の効果があることは、今日では周知の事実であり、中島もその事実を知っていたのであって、判決のいうように「医学的な必要性や相当性を裏付ける事情はなく、本件大麻が医学的な配慮の下に施用された形跡もない」ということでは全くない。

さらに、原審では、被告人は、素人判断として事前の病状の聞き取り等はともかく、医療目的で大麻を使用するというならば当然伴わなければならない医学的に正確な中島の病状の把握や大麻使用による薬効及び副作用の有無の医学的な検証等について意を払っていないという。しかし、被告人は、年来大麻の医療的使用について研究し、外国文献を収集し検討していたのであって、これ以上の研究ができなかったとすれば、それは、まさに、大麻取締法が大麻の調査研究すら違法としているからに他ならないのであって、被告人はむしろ、日本国内において専門的研究者に匹敵する調査研究を行っていた者であり、中島の病状についても、放置すればいずれは失明の恐れがあると把握していたのである。

 (2) さらに、被告人は本件譲受け後、中島に電話で病状を聞いたところ、中島は目がらくになったと答えていたが、この件に関しては取調官に聞かれなかったので答えなかっただけであって、決して判決がいうように「大麻使用による薬効及び副作用の有無の医学的な検証等について意を払っていない」ということはない。

また、後で言い訳ができなくなるため、本件譲受けの現場を見てしまったことを後悔していることが認められると判決はいうが、いかに正当な医療目的であろうと違法行為として罪に問われる恐れがあるため、被告人が行為にあたって慎重を期すべきだと考えていたというにすぎない。
被告人は中島にたいして「病院に行ったのか。眼圧はどれぐらいか」と聞いたのは、中島の入手依頼が本当に医療目的なのかどうかを確認するためであって、判決のいうように、緑内障の治療のためには大麻よりも病院による診断及び治療を優先させるべきあると考えていたわけでは決してない。被告人は緑内障は治癒が困難な病気であり、大麻が効果があることをよく知っていたが、中島に対しても、被告人の証言にあるように、医療目的でなければ幇助する考えがなく、中島に「病院にいったのか」と訪ねたのも、被告人の医療大麻に対する真剣な態度を裏付ける以外の何ものでもない。

判決では「医療目的で本件幇助行為を行った面があったことが認められないではないが、むしろ、被告人が麻薬取締官に対して供述するとおり、主として、著名な作家であり、大麻解放運動者でもある中島が大麻を欲しがっているのであれば、同人に大麻の譲渡人を紹介することで、被告人や本件譲渡人が行っている大麻合法化の運動に同人が協力してくれるものと考えて本件幇助行為に及んだとみるべきであり」とするが、被告人は麻薬取調官に対してこのようには供述していない。被告人は中島とは本件幇助事件以前から知り合いであり、大麻合法化運動に協力してもらいたいのが目的であればそのように依頼すれば十分であり、判決のいうように大麻譲渡を幇助する必然性はない。譲渡された中島が大麻の医療使用の体験を作家として実名では書けないことはあきらかで、被告人が幇助によって見返りを期待していたとは考えられず、同じ作家仲間として目が見えなくなることの恐ろしさに共感したという被告人の供述通り、本件幇助は純粋に医療目的であり、正当行為である。したがって量刑も不当に重いといわざるをえない。

 (3)結論
したがって、被告人は、もっぱら治療不能である中島の緑内障を少しでも症状軽減するために大麻の施用を助けたものであって、明らかに医療目的を持って、大麻授受を助けたものであり、刑法の正当行為が適用されなければならない。
しかるにこれを、理由なく拒んだ原審判決は、憲法第31条が定める手続的デュープロセスを欠いており、違憲として破棄されなければならないものである。

 (4)付言
なお、第1審、原審とも、自ら述べた「人体への施用が正当化されるような特別な事情」について、実は、具体的な判断を明らかにしていないが、あえて推測すれば、その事情は、つぎのようになるであろう。

先のIOM報告では、「消耗性の症状(難治性疼痛や嘔吐など)を持つ患者に対する大麻タバコの使用(6ヶ月未満)は以下の条件を満たすこと」として、@ 症状緩和のための承認された治療法が無効であること、A 大麻により症状が十分に緩和できることが期待されること、B その治療法の有効性を検証できる監督機関により治療手順が管理されていること、C 緊急の大麻提供の管理が整っていること等としている。

これらの要件は(第Bの要件を除いて)、本件における被告人の行為については、全て当てはまるものである。第Bの要件は、まさに大麻取締法が大麻の使用を全面的に禁止していることから遵守したくても出来ないのである。

ところが、人体への施用がどのような事情があれば正当化されるのかを裁判所は立論上明らかにする義務があるにもかかわらずそれをしていないので、被告人としては、弁明のしようがない。その点でも今回の裁判は不適切であり、適切な手続を履行していないものであると言わざるをえない。

4.(結論)
  以上から、被告人の所為に対して、大麻取締法を適用し有罪とすることは違憲であるから、原判決の破棄を求めるものである。
以上

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