トップページ
医療大麻裁判とは
いきさつ
裁判経過
資料集
マスコミ
掲示板
資料集
I・O・M レポート アメリカ国立医薬研究所の科学的調査結果
表紙 「EXECUTIVE SUMMARY MARIJUANA AND MEDICINE(マリファナと医薬品:要約)」
INSTITUTE OF MEDICINE(米国立医薬研究所)
NATIONAL ACADEMY PRESS 発行 1999年

= 要約 =
大麻の医療的価値に対する世論は明確に二分されている。医療大麻など病人に対する人の同情心に訴えたいだけだとするものと、誤った主張に基づいた規制法により患者への使用が不当に禁止されてきた他に例のない鎮痛薬であるとするものである。最近行われた州議会議員選挙で両支持者の見解の裏付けには「科学的証拠」が引用された。米国国立麻薬管理局(White House Office of National Drug Control Policy: ONDCP) は1997年1月、医学研究所(Institute of Medicine: IOM)に、大麻とその含有物質であるカンナビノイドに潜在する健康への有益性および危険性を評価するため、科学的証拠の検討を実施するよう要請した(8ページのメStatement of Taskモ参照)。1997年8月に開始した研究の結果を本レポートに掲載する。

ONDCPによる研究要請のもととなったのは、州単位での「医療大麻」合法化を求めた住民投票(イニシアチブ)である。1996年11月、カリフォルニア州とアリゾナ州において、大麻の医療目的での使用を認めるための住民投票(レファレンダム)が実施され可決された。アリゾナ州での投票結果は5ヶ月後に無効とされたが、住民投票結果には国内から大きな反響があった。1998年11月には、6州(アラスカ、アリゾナ、コロラド、ネバダ、オレゴン、ワシントン)で医療大麻を支持する住民投票(ballot initiatives)が実施され可決された。(コロラド州の投票は数に含まない。投票実施後、発議権を求めるための有効署名数に満たないとの裁判所判断が下されたため。)

大麻は健康上の問題を緩和してくれるのか。医療使用は安全なのか。社会的関心の中心にはこのような単純な疑問も含まれているが、ほとんどは本レポートの範囲外とする。医療大麻の議論に医療以外の立場から大麻使用への不安を主張する議論が混在すると、正しい科学的知識の扱いの障害となる。研究チームが得た医療用大麻の可能性に関する科学的証拠に対して関連分野の専門家から、社会問題に絡めた反対意見とは逆の、確固たるコンセンサスが得られた。

本レポートでは、大麻の医療使用に関する既知の情報を要約し、分析する。エビデンスベース(厳密な科学的分析から得られた知識および経験から引き出された科学的根拠に基づく医薬品の創薬を目標とする)を重視し、ビリーフベース(自己判断や直感から得た考えで厳密な科学的試験は経ていない主張)とは一線を画している。

本レポート内では、大麻(marijuana)は未精製の植物物質を意味し、摂食または喫煙により消費される葉やつぼみの部分を含む。「大麻の作用(the effects of marijuana)」が示すのは、大麻の多様な成分が持つ複合的な作用を含むものであると理解しなければならない。つまり、テトラヒドロカンナビノール(THC)という大麻の主要な精神活性成分の作用は、大麻が持つ複数の作用の1つであるが、大麻のすべての作用が必ずしもTHCによるものというわけではない。カンナビノイド(Cannabinoids)はTHCに関連する成分の総称であり、大麻草や動物の体内に存在、あるいは研究室で化学合成される。
大麻の医療使用に対する評価は次の3点に焦点をあてて行われた。
1. 単離したカンナビノイドの作用の評価
2. 大麻の医療使用に関連するリスクの評価
3. 喫煙による大麻使用の評価

 

単離させたカンナビノイドの作用
生物学的側面から見たカンナビノイド

1982年のIOMレポート、メMarijuana and Healthモ以降、カンナビノイドについて多くのことが分かってきた。当時、大麻の大部分の効能は脳への作用によるものであることは明らかであったが、THCが脳細胞(ニューロン)にいかに、どの細胞に作用するか、また主に影響を受ける脳部位もほとんど知られていなかった。大麻の有害性または医療的効果の詳細を科学的に検討するために必要なカンナビノイドの生理学的側面に関する情報も乏しかった。状況が大きく変化したのは、80年代から90年代にかけてカンナビノイド受容体の同定、解析が行われた以降である。最近16年間の大きな科学的進歩により、カンナビノイドの医療面での有益性がさらに明らかとなった。

結論:これまでに得られた大麻およびカンナビノイド成分の生理学的側面に関する知識から、次の結論が得られる。

・ カンナビノイドは痛みの軽減、運動機能の制御および記憶に作用する性質持っている可能性がある。
・ カンナビノイドが免疫系に果たす作用には多数の側面があり、詳細はいまだ明らかでない。
・ 脳のカンナビノイドに対する耐性は上昇する。
・ 動物実験により、依存性が生じる可能性が示されているが、これはベンゾジアゼピン、アヘン類、コカイン、ニコチン等を用いた実験よりも限定された条件下で観察されたものである。
・ 動物実験では禁断症状が観察されたが、アヘン類やジアゼパム(バリウム)等のベンゾジアゼピン類によるものと比較すると軽微である。

結論:ヒトの体内に発見された異なるタイプのカンナビノイド受容体は、ヒトの正常な生理機能に対してそれぞれ異なる役割を果たしているようである。また、カンナビノイドの作用には、これら受容体とは独立して作用するものも見られる。カンナビノイドが持つ人体への生理的作用機序は多岐にわたるため、異なるカンナビノイド系に選択的に作用する多種類の治療用途が考えられる。

勧告1:化学合成および植物から抽出したカンナビノイドの生理学的作用、および生体内に存在するカンナビノイドの体内における作用に関する研究を継続すべきである。異なるカンナビノイドには異なる作用があると考えられるので、THCの効能だけに限定せずに、カンナビノイドの研究を行うことが肝要であろう。

カンナビノイド薬の有効性

収集されたデータから、カンナビノイド薬の治療的価値、特に疼痛緩和や悪心、嘔吐などの症状の抑制、食欲増進に効果があることが示された。カンナビノイドのうち治療的効果が明らかとなっているのはTHCによるものである。一般にTHCは大麻の主要成分2種類のうちの1つである(通常カンナビノールがもう1つの主要成分)。

いくつかの症状に関する研究によると、カンナビノイドは概ね緩やかに作用し、症例の大部分には既存の治療薬の方がより有効である。だが、治療薬に対する反応には個人差があり、既存の治療薬に良好な反応を示さない患者群も確かに存在する。 カンナビノイド薬が持つ複数の作用(不安の軽減、食欲促進、悪心抑制、疼痛緩和)は、化学療法による悪心や嘔吐、エイズによる消耗等の特定の症状に適度に適している。
特定された物質、例えば純化されたカンナビノイドの方が、多種の未確認化合物を含む植物由来物質より好ましい。特定されたカンナビノイドを単体であれ、ほかのものとの併用であれ、使用することで、薬効のより精密な評価が可能になる。カンナビノイドの効能のうち、望ましいものを最大化し、望ましくない作用を最小化できるような薬物療法が見つかる可能性も高い。

カンナビノイドを研究する科学者のほぼ全員が、カンナビノイド薬開発への道筋は明らかだが科学的研究の成果を民間での医療用途に生かせる保証がないことで意見が一致している。カンナビノイド薬が利用可能となるのは、カンナビノイド薬の研究に公的資金が継続的に提供され、かつ民間企業に開発および販売のインセンティブがある場合に限られる。

結論:科学的データから、カンナビノイド薬、主に疼痛緩和、悪心や嘔吐の抑制、食欲増進等を用途とするTHCの治療的価値が示された。ただし、マリファナとして喫煙しTHCを取り込むという方法は粗雑であり、有害物質まで体内に送り込んでしまう。

勧告2:症状管理を用途とするカンナビノイド薬の臨床試験は、速効性、信頼性、および安全なデリバリー(体内取込・摂取)システムを目標に進めるべきである。

治療上の心理的作用の影響

THCとこれに類似するカンナビノイドが及ぼす心理的作用は、カンナビノイド薬の医療使用に関して次の3つの問題を提起する。まず、患者、とくに大麻使用経験のない高齢の患者の中には、心理的作用に対する不快感を覚える者がある。患者は、THC投与を受けた後に不快感および見当識障害を訴えており、この反応は大麻を喫煙した場合よりTHCの経口投与でより重くなる傾向が見られた。次に、運動障害や悪心等、不安により症状が悪化するものでは、カンナビノイド薬の抗不安作用が間接的にその症状に影響することが考えられる。これを有益な作用とみることもできるが、カンナビノイドの薬理作用についての誤った印象を与える可能性もある。3つ目は、症状が多岐に渡る場合、THCの複合的作用が補助的療法として働く、例えば体重減少の症状を有するAIDS患者が治療により不安や疼痛、悪心を抑制すると同時に食欲増進効果も得られるという利点も考え得る。

結論:カンナビノイドの心理的作用、例えば不安抑制や鎮静作用、多幸感がカンナビノイド本来の治療的価値を補助できる可能性がある。これらの作用は患者や置かれている状況によっては好ましくない場合もあるし、ほかの患者や状況では有益なものともなりうる。また、心理的作用が薬理作用の他の側面に関しての正確な判断の障害ともなりうる。

勧告3:不安抑制や鎮静作用等、治療効果に影響を与えるカンナビノイドの心理的作用を、臨床試験で評価すべきである。

大麻の医療使用に伴うリスク
生理学的リスク

大麻は全く無害の物質ではない。様々な作用を持つ力強い薬物である。しかし、喫煙の害を除けば、大麻使用による有害作用は他の医薬品同様の許容範囲内におさまる程度である。大麻を医療使用の観点から見た場合、人体への有害作用は薬物乱用による有害作用と必ずしも同等とはいえない。大麻の有害作用を主張する研究結果を読むときは、大多数の研究が大麻「喫煙」の影響、つまりカンナビノイドの作用と植物が燃焼して生じる有害物の吸入という喫煙の害を、同時に論じている点に注意して解釈するべきである。

大多数の人が経験する大麻による主な急性作用は精神運動能力の減少である。したがって、大麻やTHC、その他同様の作用を有するカンナビノイド系薬物を摂取した状態での車の運転や危険を伴う機械類の操作は薦められない。また、少数ではあるが不安や不快感を経験する人がいる。最後に、短期間の免疫抑制作用は完全に立証されてはいないが、仮にそういった作用があったとしても、合法的に医療使用できる薬物から大麻を除外するのに十分な理由にはならないであろう。

大麻の長期的作用については、長期喫煙の影響とTHCの作用の2点が懸念される。大麻の喫煙は人体の気道表面の細胞の異常と関連性がある。大麻の煙はタバコの煙と同様、ガン、肺障害、妊娠結果のリスクを上昇させる。細胞、遺伝子、人体のいずれのレベルの研究においても、大麻喫煙は呼吸器系のガン発生の重要な危険因子となりうることが示唆されるが、習慣的な大麻喫煙がガンを発生させるかどうかの証拠は、適正な研究の結果を待たなければならない。

結論:多くの研究により、大麻喫煙は呼吸器系障害を発生させる重大な危険因子であることが示唆されている。
勧告4:大麻喫煙による個々の健康リスクを判断するための研究を、特に大麻使用率の高い人々から、優先的に実施すべきである。

大麻依存および禁断症状

大麻の長期使用に関してつぎに懸念されるのが、THCの精神活性作用に対する依存性である。大麻使用者で依存性を示す者は稀だが、ゼロではない。大麻依存のリスクファクターは、他の薬物乱用の場合と似ている。とくに反社会的性格および行為障害と薬物乱用は密接に関連している。

結論:顕著な大麻退薬症候群も確認されているが、その症状は穏やかで短期である。症状としては、不穏状態、被刺激性、軽い動揺、不眠、脳波への障害、悪心、痙攣などがある。

「ゲートウェイ」ドラッグとしての大麻

青年期から成人期にかけての使用ドラッグ移行のパターンは非常に定型的である。大麻は最も広く使用されている違法ドラッグのため、ほとんどの人が最初に経験するドラッグが大麻であるといえるだろう。ほかの違法ドラッグを使用している者の大半が最初に大麻を経験しているとしても驚くべきことではない。実際は大部分の薬物使用者は、大麻以前にアルコールおよびニコチンの摂取から、それも飲酒や喫煙が合法となる年齢以前に、使用を開始している。

他の非合法ドラッグの後でなく最初に経験される典型的ドラッグであるという意味では、確かに大麻は「ゲートウェイ」ドラッグである。しかし、未成年による喫煙やアルコール摂取は通例、大麻より先であることから、大麻は必ずしも最も一般的なドラッグとはいえず、他の違法ドラッグへの「ゲートウェイ」になることもほとんどない。大麻の薬理作用と他の違法ドラッグ使用への進行との因果関係を、結論づけられるような証拠はない。薬物使用の進行に関するデータを、大麻を医療使用する際の仮説データとして使用してはならないことを警告しておくことは重要である。処方箋による医療用大麻の入手が可能となった場合、違法ドラッグの進行パターンのデータがそのまま適用できるとはいえないのである。

最後に、世間には大麻の医療使用を容認することにより、一般市民の間に大麻使用が広まるのではないかという懸念が広く存在している。現時点ではこの懸念の根拠となるような信頼できるデータは存在しない。現在のデータを見る限り、大麻の医療使用は、他の乱用可能性のあるドラッグと同様に規制されていれば問題はないという考え方と矛盾はない。

結論:ドラッグ使用の進行に関する現在のデータでは、大麻が医療用に入手可能となることが薬物乱用を助長するかもしれないという指摘を肯定することも否定することもできない。しかし、この問題はドラッグの医療使用に関して通常懸念されうる問題を大きくかけ離れており、大麻あるいはカンナビノイドの医療的価値の評価の要素にすべきではない。

大麻タバコの使用

喫煙には健康上のリスクが伴うため、医療用での長期の大麻喫煙は一般的には薦められない。とはいうものの、衰弱性の症状を有するような特定の末期患者に対して長期使用のリスクを論じることにあまり意味はない。しかも大麻喫煙には法律上、社会上、および健康上の問題がつきまとうにもかかわらず、大麻は特定の患者グループに幅広く使用されている。

勧告5:医療目的での大麻使用の臨床試験は、次の限定状況下で実施されるべきである。

大麻使用期間を短期間に限定すること(6ヶ月未満)。
効果が十分に期待できる症状の患者に対して実施すること。
治験審査委員会の承認を得ること。
有効性に関するデータを収集すること。

喫煙によって大麻を摂取する臨床試験は、大麻を承認された医薬品として開発するためというよりむしろ、非喫煙型で即効性のあるカンナビノイド摂取システムの開発に向けた第一ステップとして位置づけられるであろう。しかし、吸入器など安全かつ効率のよいカンナビノイド摂取システムが患者に利用可能になるまでには何年もかかると思われる。その間にも、大麻喫煙が症状緩和に役立つ衰弱性の症状を持つ病人は存在する。このような病人に対して大麻を喫煙によって使用する場合、期待される治療効果と、現在わかっているか、ありうる大麻喫煙のリスクの情報提供も含んだうえでの、病人治療という倫理上の問題の両者を慎重に考慮しなければならない。

勧告6:消耗性の症状(難治性疼痛や嘔吐など)を持つ患者に対する大麻タバコの短期使用(6ヶ月未満)は、以下の条件を満たすこと。
・ 症状緩和のための承認済みの治療法がすべて無効であったことを文書で示すこと。
・ 即効性の大麻薬により症状が十分に緩和できることが期待されること。
・ その治療法の有効性を検証できる監督機関により治療手順が管理されていること
・ 治験審査委員会が提供するものに匹敵する、医者から報告を受けて24時間以内に大麻を指定用途で患者に提供できるような指導が可能な、管理手順があること。

非喫煙型で即効性のカンナビノイド摂取システム(DDS)が利用可能となるまでの間、大麻喫煙で緩和できる可能性のある慢性症状、例えば疼痛やAIDSによる消耗など、に苦しむ患者にとって明確な代替摂取法は存在しないことは確かである。可能性としては、有害なDDSを用いた実験的治療であり、症状が終始監視、記録される治験の被験者という立場を明示し、その状況下で大麻を使用することのリスクおよび恩恵の情報を十分に提供した上で、n-of-1臨床試験により治療するという手段が考えられる。

戻る